Sting

Taylor Baucom/The Players' Tribune

To read in English (Published Feb 27, 2024), please click here.

「自分のヒーローには会わない方がいい」と言い始めたのが誰なのかは知らねえが、おそらくそいつはプロレス業界で過ごしたことがあるんだろうな。理由がなんであろうと、このビジネスは、ある特定の人々の最悪の部分を引き出すことになる──とりわけそいつらがシーンから離れるときにはな。レスラーが終焉を迎える頃ってのは、恨み辛み、わがまま、そしてあらゆる面で腐った振る舞いが目につくもんだ。いやマジで、そういうやつらは環境が生み出したものなんだけどな。先人たちが、何かを残すのではなく、奪っていくのを見てきたから、それを受け継ぐ権利があると思ってんだよ。最悪のサイクルだ。

オレがスティングとやることになった時、誰もちゃんと教えてくれなかった。笑えたのはさ、何週間も屋根の骨組みに座らせられてたってこと。意味わかんねえよな。誰かと組んでタッグマッチをやるもんだと思ってたけど、そうはならなかった。オレは「このままここに座り続けるのか? 別にいいけどな」って感じで。でもよ、あるときこう言われたんだ。「おい、オレたちがお前をここに座らせている理由はわかるよな。スティングが来るんだ」。バカなこと言ってんじゃねえよ、と思っていたことを覚えている。というより、うまく理解できなかった。スティングだと? しかも彼の復帰戦だよな……あの人とオレが睨み合うってのか? はは、なんてこった。

ショーの1時間前にコーディーに呼ばれて、こんなことを言われた。「いいか。スティングが来ているから、リングに上がる前に彼に会っておいたほうがいい」と。そしてスティングのトレーラーまで連れていってもらった。物事はあっという間に進んでいったから、オレは自分がどれくらい緊張していたかも覚えていない。でも緊張することなんて、何もなかった。オレたちはセグメントの流れを話していったんだが、いや、最高だったな。スティングにはエゴがなく、偉そうにしたりもしなかった。あれはこうなるんだぜ、坊ちゃん、みたいな感じでもなかった。そんなことは一切なく、むしろ逆だった。彼はオレの話を聞きたがり、オレの好みなんかを知りたがり、すべてがクールかどうかを気にかけていた。史上最大のショーのヘッドライナーを務め、信じられないほどの大金を稼ぎ、オレの人生よりも長くトップに君臨してきた人がだぞ。そしてこのマッシヴな復帰を果たすために、やってきたんだ。なのに、彼は何よりも、オレが大丈夫かどうかを気にしてくれていたんだぜ。27歳の無名の若造、しかも彼の格好を半分真似たようなやつのことを気遣ってくれていたんだ。マジかよ。信じられねえな。スティングはめちゃくちゃナイスな人なんだ。オレはそんなことを思っていた。

それは2020年12月──この信じられないほど最高の旅が始まったときだ。

その旅が終わろうとしている今、間違いなくこう言える。スティングは本当にそういう男だ、と。この3年間、どんな状況に置かれても、彼はいつもあのトレーラーで会ったときのスティングのままだった。それこそ、彼がここですごく活躍できた一因だと思う。彼ならAEWに来るなり、オレがスティングだとか言って、スコーピオン・デス・ドロップを1、2発かまして帰ることもできただろう。それでも人々は彼を愛したと思うよ。チェックボックスには、ぜんぶレ点がついて。でも真面目な話、スティングが誰かに証明するものなんて、何もなかったんだ。なのに、あの人はしっかり仕事をして、結局のところ、価値を示したんだ。ファンに対して、ロッカールームに対して、ビジネスに対して、そしてなにより自分自身に対してだろうな。「まだやれる」とか、適当にデタラメを吐くわけじゃなく。もっと全然パワフルなやり方で……彼が失ったものを取り戻すように。それは自分が納得するように引退する権利だ。

彼はそれをやってのけたんだぜ。

オレはマジでリスペクトしてるんだ。

Taylor Baucom/The Players' Tribune

そして今、オレたちはここにいる。

スティングのお父さんが最近亡くなったことは、みんなも知っていると思う──彼の最後の試合のわずか2週間前に。またスティングの息子たちが、この1カ月半にわたってオレたちが話してきた話の一部を担っていることも、ファンなら知っているかもな。あの試合が近づくにつれ、オレはそのことばかり考えていた。レガシーとは何か、キャリアとは何か、そして人生とは何なのか、そんなことをずっと考えていたんだ。スティングのような人の場合、普通の人の頭で理解するのは無理だろうな。彼は50年にわたって、文字通り、何百万人もの人々に愛されてきた。1949年生まれのリック・フレアーとも、2005年生まれのニック・ウェインとも、戦ってきたんだぞ。ありえないほど巨大な存在なんだ。でもスティングが特別なのは、その巨大さに自分をはめてしまわないところにあると、オレは思う。いつだって、誰とでも、彼は自分らしくあり、自分にとって何が大切かを決め、それを大事にしてきた。

彼は約束を果たす男であることの意味を考えてきた。彼は父の子であり、子供たちの父だ。共に仕事をするレスラーたちの同業者でもある。そして、チケットを買ってショーに来たファンにとっては、“ジ・アイコン”だ。それから過去3年間は、オレのメンターであり、オレのパートナーであり、オレの友達であることの意味を考えてくれていたんだ。そのすべての意味を、深く考え抜いていた男。しかもヤバいくらい誠実に。

それがオレにとって、スティングのレガシーだ。

それこそ、日曜日にオレたちが祝うものなんだけどな。

でも、オレたちは日曜日の日曜日も祝うんだ。なあ、これはスティングの壮大なキャリアのなかで、ほんの小さなパートだってことはわかっている。たかが1試合だけど、実現してマジで嬉しいぜ。トニー・カーンがオレたちを組ませてくれたことと、スティングにこんなにすげえ花道を作ってくれたことに、感謝している。いや、実に多くの人たちが最悪の形でキャリアを終えてきたからな。ビジネス側が引退するレスラーをこけにするか、逆にレスラーがやっちまうか、あるいはその両方か。気が滅入っちまうよな。さっきも言ったように、プロレスはクソみたいなサイクルになりかねない。そしてもしスティングのレガシーの最後の章が書かれるなら、こうなってほしい──サイクルは壊せるものだと。プロレスのビジネスは、年嵩のレスラーに敬意を持って接することができるんだ。彼らの去り際に唾を吐きかけるようなことはせずに。そして年嵩のレスラーは、奪うのではなく、与えることができるんだ。彼らは優雅に現役生活に幕を閉じることができる。ビッチのように振る舞うのではなく。

試合の前には、これまでスティングにずっと言ってきたことを繰り返すまでだ──楽しみましょう。それだけだ。これが唯一のルール。それ以外はどうでもいい。

試合を終えたら、彼に唯一言い残したことを伝えるつもりだ──ありがとう。

オレはただヒーローに会えただけじゃない。彼が価値のあるヒーローだと知ることもできたんだ。

光栄だったよ、マジで。オレの人生で最高の時間だった。

トニー・スキアボーネの言葉を借りれば──

それこそ、スティングだ。

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