Allen
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ラリー・ヒューズはこの話をするのが好きなんだ。
それはラリーがルーキーだったシーズンのはじめごろ。ある日の練習後、オレたちはいつものように選手の駐車場で、くっちゃべっていた。そして話しながら、オレのベントレーまで歩いていった。
ベントレーというクルマは、オレにとってはなんでもねえもんだ。オレの言っている意味はわかるよな? ただのクルマだ。でも面白いことに、ほかの多くのひとにとってはそうじゃないらしい。AIにとっては、ただのベントレー。しかしそれ以外のひとには、“あの” ベントレーとなる。
だからラリーとってはオーケー、そう、“あの” ベントレーだ。オレたちはそこまで歩いていった。
なら、やつは固まっちゃってよ。
つまり、ラリーはそこに呆然と立ち尽くしちまったんだ。“あの” ベントレーを前にして、茫然自失。クルマを見た後にオレの方を向き、あいつはこんなことを言ったよ。「なあ、AI。オレもこんなクルマを手に入れないとな」
オレは迷いなくこう言った。「ほしけりゃ、オレのをやるよ」
あれほどまでに喜んだ人間を、オレは見たことがない。
でも楽しいのは、ここからなんだ。いや実際に調べたら、おかしな話はふたつあった。ひとつめは、ラリーがオレはひとつしかベントレーを持っていないと思っていたってこと。違うんだな。あの頃、オレはベントレーを2台ほど持っていたかな? おいおい、オレはいいやつだけど、そこまでナイスじゃないぜ。
ふたつめについては、想像を膨らませてほしい。ラリーはオレのカギを受け取ると、カバンを後ろのシートに投げてクルマを運転していった。理解してほしいのは、ラリーには過去に、そんな経験がなかったということだ。だからクルマを出した彼は、おそらくこんなことを考えていたはずだ。「オーライ、今日はたっぷりと寄り道をして帰ろう」と。初めてあのベントレーに乗ったなら、高速なんかには乗ろうとせず、街中で人々の目を引きつけたくなるものだ。そんなもんだろ?
なんにせよ、翌日の練習でラリーを見かけたオレは、こう訊いてみた。「リルブラザー、ドライブはどうだった?」
するとなぜか、彼はお化けか何かを見たみたいに、オレの方を見返してこう言ったよ。「よお、あんたは冷たい人だな」
「なんのことだよ」とオレ。
するとラリーは「オーケー、よくわかったよ。これがルーキーヘイジングってやつだな」と言った。前の晩に一睡もしていなかったような顔でさ。
「ルーキーヘイジングって、何のことだよ?」とオレ。
「タンクにガソリンが入っていなかったんだ」
ラリーは今日の今日まで、こう考えていたはずだ。その時のオレはタンクにガソリンが入っていないことを承知で彼にクルマを渡し、彼がベントレーのガスメーターの見方も知らないとわかっていたと。結局、ラリーは西フィラデルフィアの奥地で、ガス欠になってしまった。夜の西フィラデルフィアに、あのベントレーと彼ひとりで……。助けてもらった時には、夜もなかば明け始めていたらしい。
何が面白いって、なあ、ラリーとオレは家族みたいな間柄だというのに、彼はこの話を吹聴して回ったんだぜ(いまだに言いふらしているんだ!)。その話が一人歩きをはじめて、あとは雪だるま式に話が膨らんでいったわけだ。都市伝説かなんかみたいに。だからそれを聞いた人の半数はきっと、こんな風に感じていただろう。「オー、ワオ、AIが全部仕組んでいたとはね──恐ろしいやつだな」と。かたや同じ話を聞いた逆の半数は、こんな感じだったはずだ。「オー、ワオ、AIはこのルーキーにベントレーをあげたんだ──聖人みたいだな」とね。
理由はわからねえが、最近よく、この話について考える。もしかしたらこの話というより、それが示しているものについてかもしれねえな。オレの人生はずっとこんなかんじだった。オレがただのひとりの一般人だったことは一度もない。自分自身でいられたことなど、一回もねえんだ。ある人々はオレのことを愛し、またある人々はオレを嫌った。ただ誰もが、それはなんつうか、オレの存在がひとつの人生を超越しちまっているだの、カルチャーアイコンだの、バスケットボールの神話的存在だのといったイメージで、真実とは異なるものを見ているようだった。オレを嫌う人々は、それを利用して何も関係ないことを持ち出してきては、オレに悪いレッテルを張りたがる。オレのファンは愛に溢れている...... だが、ファンも時々罪を犯しているようなもんだ! 真実ではない話でも、オレをヒーローに仕立て上げてきたんだからな。
ただもし、オレがこの人生で一度も縁がなかったものがあるとすれば、それは普通ってやつだ。ただの一般人とか、何の変哲もない人間とか。オレはいいやつか? 自分ではそう思っている。オレについて訊いて回ってみな。じゃあ、これまでにミスを犯したか? 当たり前だろ、ノーと言えるやつはいない。もちろん、オレもだ。回数については、いつも新しい数字がでっちあげられているけどな。今言ったようなことをバランス良く混ぜる。つまりオレの過ちと最高の自分自身の間のどこか──それが本当のオレなんだ。真のAIだ。
そんな男について、みんなが正しく理解しているかどうかはわからねえけどな。
こうして『プレーヤーズ・トリビューン』で記事を書くことになった時、オレがここでやりたいことは、それこそ、それなんだと思う。ここでタイ・ルーについて書いたりはしないし、練習について語ろうとも思わない。そんな手垢のついたトピックスはつまらんだろう。だから正直になって、普通の人になって、この手記を綴りたい。「みんなに知って欲しいアレン・アイバーソンについて。アレン・アイバーソン作」。いいねえ、やっちゃおうぜ。
1. オレは絵を描くのが好きだ。
多くの人はオレのことを知らない。
オレの現役時代には、コート上で耳打ちしてくる選手が多かった。ゲイリー、レジー、KG、コービー──そんな世代の選手たち全般だ。そんなことをする理由は、誰もが相手より少しでも優位に立ちたかったからだ。
でもオレ自身は、彼らみたいに喋りずきじゃなかった。面白いよな。でもオレはオレのやり方で敵を出し抜いていたんだ。
オレは絵を描いた。
ああ、そうだ──お絵描きだ。
誰かに腹立つことを言われたら、オレはそいつを絵にしてやった。まさにその言葉通り、紙とペン、良質なインクを使ってそいつを描き、陥れるんだ。気に食わないやつを、最悪の特徴と一緒に漫画にして、大恥をかかせる。マジで冷酷なやつをな。そんな風にオレに描かれたいと思う人はいなかったな(今もいないはずだ!)。
2. コーチのトンプソンを怒らせてはならないとわかった夜。
あれはたしか、オレが大学1年のなかばにプレーしたビラノバ大とのアウェーゲームでのこと。両チームは強烈なライバル関係にあり、加えてそのシーズンはどちらも上位につけていた。
オレたちはトンネルをくぐってウォームアップを始めた。すべてはいい感じで、万事が整っていた。試合に備えながら、本当のエネルギーを感じていた。ところが仲間のひとりが突然、あることに気づき、観客のなかを指差したんだ。
その時のことを、オレは絶対に忘れない。
スタンドの上の方に4人の男がいて、騒いでいた。そして彼らは全員、手錠や鎖、オレンジ色のジャンプスーツを身にまとっていた。そう、あの類のオレンジ色のツナギだ。さらに彼らは大きなサインを掲げていた──はっきりと明確なやつだ。そこにはこう書いてあった。
アレン・アイバーソン:次なるMJ
でもよく見ると、“MJ”にはバッテンがつけられ、代わりに“OJ”と書かれていた。
読者にはわかってもらいたい。というのは、これを書いている今のオレは成熟した人間だけど、当時のオレは19歳だったってこと。子供と言ってもいいくらいの年齢だ。そしてオレは、自分の過去や出自を恥じるようなことはしない──絶対にな。でも同時に、頭にきた。やり直しが許されるひとはいねえのか? オレが普通の子供としてカレッジに入り、ただバスケをしちゃいけねのか? いいか、ひとつ言っておく。世界で一番の贅沢は、気ままに生きることだ。人々はカネや幸せなんかを追い求めるものだよな。でも気楽さに勝るものは、地球上に存在しない。気楽さこそ、一部の人々がオレから遠ざけてきたものだったと気づいたってわけだ。
それを知っていたから、トンプソンコーチは実に特別だった。彼はそれを知っていた。だからこそ、あの瞬間、コーチはオレが気落ちしていくのがわかったんだ。この世界のすべての物事から、オレを守ることはできないと彼は知っていたんだ。
でもコーチはトライしてくれた。
オレが敬愛するトンプソンコーチはその夜、こんなことをしてくれた。そのサインを没収するように頼んだりはしなかったし、叫んだりして、彼らを目立たせるようなこともしなかった。その代わりにコーチは、選手たちひとりひとりに、「自分たちのことを心配する必要はない」と語りかけてくれた。そしてオレたちはその場を去った。それだけだ。ことを荒立てることなく、胸を張って立ち去ったんだ。そこにいて、そこを去った。それだけだ。
選手たちが帰っていった時、コーチがコートに戻っていったことも付け加えないとな。彼は落ち着いた口調で審判にこう言ったよ。「ヘイ、我々はあなたたちに敬意を払っていないわけではない。断じて。でもあなた方には、今から言うことをやってほしい。今すぐ会場からあの4人の馬鹿どもを退場させないかぎり、我々はこの試合を没収とする。理解できたよな?」
彼らは理解したよ。
3. オレは本当の映画好きなんだ──あらゆる映画を観るために多くの時間を費やしている。
お気に入りの映画のひとつに、『ヒート』がある。主演のアル・パチーノが、銀行強盗した白人たちを捜査する映画だ。その強盗団といったら、なんでも盗んじまうんだ。頭領はロバート・デニーロ、ナンバー2にヴァル・キルマー、その妻にアシュレイ・ジャッド……完璧な面々だ。ボスのロバート・デニーロは、こんな感じだ──ヤバい暮らしには身ひとつが一番だ。いざって時は30秒フラットで高跳びできるように、面倒な関わりは持つな、と言わんばかりなんだ。まったく氷のように冷たいやつらだ!! 強盗団の全員がな。
オレは映画を観る時、細部に注視するのが好きだ。それらを分析して、毎回、なにか新しいことを得るようにしている。だから最後に『ヒート』を観た時は、こんな感じだった。なんといっても、強盗団がいい!! その理由は彼らがスーツを着ていたからだ。白人たちがスーツを着て、ネクタイを締めれば、彼らを疑うものは誰もいないだろ!! 誰が何を着るべきかとか、そうしたすべての固定観念さ。オレの言っていることはわかるよな。個人的には、この映画で監督が伝えたかったことは、次のようなことだと思う。人々のジャッジメントなんて全然意味がないと。お前が思ったようにやれ、と。
繰り返すようだけど、すべてはステレオタイプによるものなんだ。
たぶん信じてはもらえないと思うけど、昔はオレが着ている服について、本当に嫌になるほどとやかく言われちまった。AI、あいつは悪党だとか、やつの髪型はギャングみたいだとか、プロアスリートがする格好じゃねえとかよ。まあ本当にうるさく、外見に関するありとあらゆることを咎められたな。でもな、それがなんだっつうんだ。ジュエリーはジュエリーだし、髪型は髪型だし、服は服だ。答えてくれよ……髪型が犯罪に繋がるのか? オーケー、オレは若い黒人だから、そんな格好をしている。でも、オレがなにをしているのか──知ってるだろ。オレがしていることといえば、クルマから降りて……自分のオフィスに向かい……仕事をする。
しかしクレイジーだ。こんなことを言っても、わかってもらえやしないだろうけどな。誰にもな! たとえば2001年、オレは最高に有名になった。おそらく、アメリカでもっとも知られている人の上位10人か、それくらいには入っていたと思う。それがどんな感じか、今から話すよ。歩道を歩いていたら、もちろん色んなやつがサインをねだってくるし、大声で「ワッツアップ、AI」なんて声をかけられる。そんな愛情は完全に受け入れるよ。でもクレイジーなことも起こるんだ。いまだにあることなんだが、オレをジロジロ見てから避けるやつらがいる。悪気はないのですが、私はちょうどこの通りの反対側に行くところなんです って感じにな。黒人の有名人の近くにいるより、白人の犯罪者の近くにいる方が安全だと思っていやがる。それって、マジでメチャクチャじゃねえか?
4. とはいえ、オレの格好の理由について話そう。
いたってシンプルだ。生まれた場所や育った環境がある種の場所なら、成長していくなかで、年上の子供たちの着ているものに一番大きな影響を受けるんだ。
だからオレのこの自分のスタイルは、地元と密に繋がっている。
理解してほしいのは、オレたちの地元はオーダーメイドのスーツを着た弁護士や銀行家が行き交うようなところじゃないってこと。それが事実だ! 「カネが入ったら、アルマーニの細身のスーツを買おう」なんて言う人はひとりもいない場所だ。そんなの逆に、「何のために必要なんだ?」って感じだな。仕事のためじゃないことは明らかだ──うちの地元に、そうした類の職業に就いているひとはひとりもいない。だから、そんなスーツが買えるようになった時に、人々はこの意味がわかるかもしれない。でも実際は何もかわらないんだ。そうだろ? そんな服を欲しがることはない。最高のシナリオは、こんな感じだ。あの頃、もしオレがいいスーツをもらったら、「毎週日曜日に教会へ行く時のものだな」くらいにしか思わなかったってこと。マジでな! いやマジで、名誉のために言っておくが、オレらにとってスーツなんてその程度のものだった。スーツはステータスじゃない。教会へ行く時の服だ。
だからリーグでプレーするようになった時も、オレは急に極端に様変わりしたわけじゃない。そんなのことはありえない。オレは元からの自分自身だった。“NBAの自分”は新しい自分ではなく、昔のままの自分だった。オレはニューポート・ニューズの更生施設出身のアレン、そのままだった。そしてさっきも言ったように、成長するなかでオレがずっと望んでいたことは、近所の年上の友達のような格好をすることだった。彼らは人に見せびらかすくらいのカネを持ち歩き、本物のブーツやジーンズ、スウェットとか、色々と買っていた。もし誰もケチがつけられないほどにフィットしたオールドスクールの格好をしていたら、ああそうだ、それがステータスってもんだ。
なあ、それこそ、オレがしたことだぜ。NBAでプレーし始めた時、物事は本当に複雑だった。本当に多くのことがな。でも服については? 冗談はやめてくれよ。おそらく、もうちょっと良い物や、もう少しだけナイスなブランドものを買えたと思うし、新作を人より先に手に入れることもできただろう。だが変わったものはなにもなかったんだ。今になって思えば、面白いし、笑えるよな。でも当時は、服を着替えろとか、タトゥーを隠せとか、髪を切れとか言われるとな、オレの人格を変えろ、と言われているような気がしたもんだ。このオレにか!?
彼らはAIの出自を見るなり、拒絶反応を示したかもな。
彼らはオレなら、NBAのどんな選手でもなれると言っていた……でも自分自身にはなれなかった。
5. 歴代最高選手の議論に加わろうか。
避けては通れねえな。最近、多くのひとがマイクよりレブロンを支持しているみたいだな!
いいか、よく聞いてほしい。まずなにより、オレはレブロンが好きだ。レブロンに対して、愛しか持っていない。世代随一の選手で、史上最高の選手のひとり。偉大な夫にして、偉大な父。最高のロールモデルだが、それ以上の存在だ。あいつがアクロンの学校で取り組んでいることは、美しいものだ。
でもな、みんな。
オレたちはマイクについて語っているんだ。
わかってるよな、マイクについて話しているんだぜ。
ブラック・ジーザスについて、だからな。
これ以上、言うことはほとんどねえよ。マイクはGOATだ。それはいつの時代も変わらねえ。「スタッツを見ろよ、AI!」とか言って糾弾するのはやめてくれよ。それでオレの考えが変わると思っているのかもしれないけどな。
マイクとの最高の話をしよう──大したことねんだけど、大袈裟である必要もねえしな。あれは2003年、マイクにとって最後のオールスターゲームに、オレたちは出場した。AIが生涯リーボックを身につけていることは知っていると思うけど、時と場合によることもある。なんにせよ、オレは尊敬するあの人にオマージュを捧げたかったんだ。だから昔のクラシックなMJのユニフォームを見つけ、家に持ち帰り、小さなスウッシュをカットし、すごく気に入って──おまけにブルズのユニフォームも着て──、オールスターゲームの会場へ向かったんだ。マジで誇らしくてさ。あとはマイクを探すだけだった。
ロッカールームに行き、「誰か、マイクを見かけた?」と訊いても返事はなし。
別の場所で、「誰か、マイクを見かけた?」と質問しても無反応。
またほかのエリアで「マイクは?」と言っても、誰も知らねえと。
しょうがねえから、最後にコーチのオフィスへ向かった。彼らなら知っているはずと踏んで、ドアを開けると……。
そこにコーチはいなかった。
マイクだけがいた。
これこそ、マイクだ。誰も信じてくれねえかもしれんけどな。オレが目にしたことは、誰にも信じてもらえんだろうな。そこにはユニフォームを着たマイクがいた。机の前のリクライニングチェアにゆったりと座り、まるでこの世のこととは一切関わりがねえみたいにして。この現世とな。ビーチでくつろぐみたいに、両足を大きく投げ出してさ。さらにすごいのは、なんだと思う? 彼はマイクのブランドの、どでかい葉巻を吸っていたんだ。
彼はこっちを見て──オレのユニフォームを一瞬ちらっと見て──、微笑んだ。
そして頷いた。
それでまた、葉巻を吸い始めたんだ。
本当に敵わねえよな! なあ、オレはクールな男だ。そうだよな。でもマイクは、オレがこれまでに会ったなかで唯一──本当に彼だけだ──、あれほど優雅にクールな所作で、輝きを残せるひとなんだ。あの瞬間のディテールはすべて覚えているし、それを思い出すたびに興奮する。ただただ、彼がいかにクールだったかを思い浮かべるだけで。オレの言っている意味はわかるだろ? つまりこういうことだ。彼はオールスターゲームの前に、ユニフォーム姿のまま葉巻を吸っていたんだ。しかも、コーチのオフィスのなかで。コーチの部屋だぞ。キャリアで最後のオールスターゲームの前に、コーチのオフィスでユニフォームを着て、何事もねえかのようにデスクに足を投げ出し、いかつい葉巻を吸っていたんだぞ。すべてを支配していた。完全に、すべてを!
みんな、頼むからこのトピックについては慎重にな。そして、意義を挟まないでほしい。お願いだ。
ブラック・ジーザスに関する話をするときは絶対に。
GOATであるマイクに関する時は絶対にな。
6. "The Process" には賛成だ。
正直に言うよ……オレの時代にはなかったやり方だ。ずっとプレーオフに出てないって? オーケー、オレの時代だったら、プレーオフに進出できないなんて許されなかったけどな。
でも当時はわけが違ったんだ。なんにしろ、過去の話だ。いいか、今の選手たちは勝ち続けている。勝ち続け、大事なものを築いている。とてつもない才能を持った選手たちだ。2001年のオレたちのチームよりもタレントに恵まれている。そう言っていいだろう。ジョエル、ベン、ジミー……彼らがビッグ3だ。このビッグ3は今だけではなく、未来のためにもある。まちがいなく、今のフィリーには勢いがある。オレもその一端を担うことができ、すべての瞬間を楽しんでいる。
7. 結局のところ、オレがこの記事で何を言いたいか、わかるよな? フィリーがミークの味方をしてくれたことを、オレはこの上なく誇りに感じている。本当の、真の誇りだ。ミークはオレのブラザーだ──れっきとした。弟みたいな奴のことだからな。だからあいつが逮捕された時は辛かったよ。
面白いもんだよな。オレは若い頃、自分をロールモデルだとか、まったく考えなかったからな。でもある時、ミークとふたりで話していると、彼がフィリーで育った頃のことを話し始めたんだ。すると、物事が暗転した時──間違いなくあっただろう──には、気を紛らわせるために考えることがあったと言った。AIはいま何をしているんだろうか、と考えることも、そのひとつだったと。
そんなかんじだった。
ミークからそう聞いた時、深い衝撃を受けたな。もしかしたら、オレはただ自分の生活をしているだけでも、ラフなエリアでタフな生活をしている子供たちに影響を与えてきたのかもしれないな。そんな子供たちが、こんな風に考えてくれていたらいい。「オーケー、このAIという少年は、180センチくらいしか身長がないのに、とんでもねえ選手だ。絶対に諦めない戦士だ。しかも彼はこんなエリアから巣立っていったのか。彼はその肩にこの街を背負ってくれている」。彼らがこんなことを考え、オレのストーリーについて思いを馳せてくれたら、彼らにも明るい未来がやってくるかな。
それはオレにはわからねえ。考えるとヘヴィーになる。でもひとりでもそうなれば、オレは本当に嬉しいよ。心からな。
それからこれについても話さねえとな。ミークに何が起こったのか。そこには過ちなんかねえだけじゃなく、正当性の欠片もねえ──ところが似たようなことが、数え切れないほど起きている。ミークだけでなく、彼に似たひとや、オレに似たひとに。ただ若い黒人ってだけでな。深刻な問題だ。でも希望がないわけじゃねえ。フィリーを甘く見るなよ。もしフィリーを敵に回したら、スーパーボウルを使ってムーブメントを起こしかねない。#FreeMeek──これがモットーだ。声のかぎりに叫ぶぜ。
誇り高き一日、最高の一日だった。
フィリー、愛している。また会おう。いつも一緒だな。
8. スーパーチームについてどう思う? 臆病者たちのチームと呼ぶべきかもな?
ははは! ただのジョークだ、ジョーク。冗談だ。オレは自分のスポーツを進化させていく気のないような、不機嫌な親父にはならねえ。チーム作りにしても、やり方は何通りもあるからな。
ただ個人的なことを言うなら、オレは自分たちのやり方が好きだったし、ロックスターであり、軍曹だ。チーム全員を隊に迎え入れて敬礼させる。あいつらはオレの戦士だ。オレは自分たちのコミュニティーが好きだった。周りの人々と関係を築いていくのが好きだったんだ。そして彼らはプレーもできた。しかも全力でな。最近じゃ、忘れられているみたいだけど、2001年にオレたちは56勝を挙げた。コート全体に最高のハーモニーがあったからな。でも今はみんな、数字だけを追い、新戦力を買いまくり、それでチームが良くなると思っているみてえだ。そんなこと、ありえねえのにな。
話したいことがひとつある。オーガニゼーションはオレの親友ヴァーノン・マクスウェルをトレードに出した。オレが敬愛したヴェムを移籍させちまったんだ。ある日、クラブのビルに行き、「マックスはどこだ? どこにいるんだ??」と探したよ。
「彼は行っちゃったよ」と、誰かが教えてくれた。
よく聞いてほしい。あの日のオレのような気分には、誰にもなりたくないはずだ。マッド・マックスがトレードされた日に、オレのことを茶化すような真似はやめろよ。オレは今でも、あのトレードを憎んでいるんだ! なんでそんなことが必要なんだよ。計算機がそう言ったんか? そんなもんはなんの役にも立たねえよ! しょうがねえから、こんな質問をする。そんなお利口さんたちは、ヴェムがどれほどタフな選手だったのか、毎試合どれだけオレたちを助けてくれたのか、それらがわかるスタッツは持ってねえだろ??
まさにこれこそ、オレがこれまでに学んだなかで一番大きなレッスンになった。本当さ。すべてに計算が必要なわけではないし、何事にも意味があるというものでもない! バスケでも、人生でも、何事においてもそうだ。世の中全体を理解するのは難しいけどな。
物事のシステムには、くだらないこともあるな。しかもそれは、わざとわかりにくくしているようだ。
9. NBA史上最強スターティング5(オレ以外):
ステフ
マイク
コービー
ブロン
シャック
史上最高のラッパー5人(オレ以外):
ビギー
パック
アンドレ3000
レッドマン
ジェイZ
史上最高の映画5選(『ヒート』以外):
カジノ
奴らに深き眠りを
青いドレスの女
完全なる報復
トロイ
10. レブロンのことも少し話そう。
ちなみに“レブロン”は、今の世代の選手全体のことだ。面白いことに、オレはいつもこんなことを訊かれる。「AI、この新しいNBAのことをどう思う?」とか、「ファッションにのめり込んでいる選手たちをどう思う?」とか、「あなたのスタイルを拒絶した次の世代の多くの選手たちについて、どう感じている」とかなんとか。
これについては、オレも言っておかなければならねえことがあんだ。
いいか、人々はそんな選手たちがファッションへの愛を示すと、それはオレのスタイルを拒絶したと捉えているようだ。いや、それは違うだろ。昔のオレを思い出して、よく注視すれば、オレが何のためにそうしていたかがわかるだろ。オレがバギー系の服の広告塔だと考えるなら、あんたの頭はいかれちまってる。フィットの帽子? コーンロウ? タトゥー? ヴィンテージのユニフォーム? そんなものすべて? そんなわけがねえだろ。オレはもっと意味深いものを代表していたんだ。つまり、要約するならこうだ。
オレは自分自身でいることを表現していたんだ。
それだけだ。だから間違いなくある時期においては、バギー系の服なんかを身に纏い、自分のその格好によって、“自分自身でいること”を表していたんだ。でもよ、実際レブロンの世代の選手たちは、同じような格好をしていたじゃねえか! それがオレの影響によるものかどうかはわからねえ──訊いてみな! ただあの時代なら、選手たちにそのスタイルがどこから来ているのかと尋ねれば、シンプルな回答が返ってきたはずだ。“AI”とな。
でもさっきも言ったように、結局のところ、スタイルはひとつじゃねえんだ。あるカルチャーにひとつの物事を持ち込むとか、そんな話じゃねえ。オレにとって一番のレガシーのひとつ、つまりオレがもっとも誇らしく感じているのは、人々の考え方を変えたことだ。若くてリッチな黒人アスリートが、バスケットボールで成功を掴むためにどうあるべきか。それに対する考え方を変えられたと思う。
そんな役割を自ら担おうとしたかって? そんなわけがねえ。ありえねえよ。オレはヒップホップが好きで、それをみんなに知ってもらいたい。こんなにタトゥーも入っていて、それを隠そうとも思わねえ。朝まで遊んだ後の夜の試合で50得点10アシスト。それさえも隠そうとしねえ。オレはバスケットボールをするためのロボットなんかじゃねえ。言っている意味はわかるよな? オレはリアルな場所で生まれたリアルな人間だってことだ。そして外に一歩でも出たら……、色んなものを背負う。歴史を背負うこともある。本に書かれている通りにな。だってオレは、多くの意味合いにおいて、いつもこうしてきたんだ──あけっぴろげの本のようにな! その本に書かれていることは……、何も変わらねえだろう。オレは嘘なんかついたことがねえ。読んでも、読まなくても、どっちでもいいぜ! でも読み飛ばししておいて、何か語ろうなんてことはするなよ。
これがオレの言いたかったことのすべてだ。このリーグ、このNBA、現在。トレードの要望やスーパー・マックス、細身のスーツなんかじゃねえ。違う、まったくな! すべては才能に溢れた人々たちのことだ──彼らは自分自身でいなければ、成功できなかったとわかっている。彼らは自分自身でいたからこそ、成功したんだ。
このレガシーは誰のものか、読者のひとたちも今ならわかるだろうな。
11. またこの言葉が出てきたな。レガシー。これについてはマジで良く考えてるよ。オレの新しいシューズがそう呼ばれているのは、偶然じゃない。
1996年のことはよく覚えている。スニーカーの契約のオファーがいくつか来ていて、ナイキのオファーとリーボックのオファーをそれぞれ受けた。わかるかもしれねえけど、ナイキのオファーの方がずっと低かったんだぜ。かなり安かった。なぜなら、当時のナイキは常にそんな感じだったから。本当に誰もが、ナイキを身につけていたんだ。文字通り、誰もがな! だから彼らは選手と高額の契約を結ぶ必要がなかったわけだ。なにしろ当時のナイキは、「うちがオファーしているんだから、あんたはナイキのものでしょ」という感じだった。それだけで価値のあるもののように。わかるよな?
しかしオレは自分自身だ。本当に何もないところから成り上がったんだ! そしてリーボックは契約を結んでも、自分自身のままでいさせてくれた。彼らはオレにチャンスを与えてくれた──オレのような外見や振る舞いをする人間に慣れていないこの世界で、物事の見方ややり方は常にひとつではないと、そう示す機会を与えてくれたんだ。だから当時のオレにとって、リーボックとはただシューズの契約を結んだだけではなく、彼らとの関係はかなりでかい意味を持つものだった。ほかの会社は、彼らのカルチャーのなかに、オレを組み入れたいようだった。でもリーボックは違う。そこでは、カルチャーはほかにない。オレこそ、カルチャーなんだ。オレたちがカルチャーだ。だからこのイメージを築き、ほとんどムーブメントを起こしたと言っていい。そこでオレは、すべての人々を喜ばせようとはしねえ。だから少なくとも、オレは顔を上げて、自分を貫くだけさ。理解されるかどうかは、わからんけどな。
それでも人々は敬意を示してくれる。
最後は彼らも仲間に入りたくなるだろう。
12. 昔、こんなことがあった。アイザイア・トーマスが話しかけてくれたんだ。レジェンドのジークからだぜ! 彼はオレを呼び寄せ、二人で簡単に言葉をかわした。あらゆるアドバイスをくれ、オレの内外の強みと弱みを知り尽くしていた。アイザイアはバスケットボールの天才だ。そこに嘘はなく、おそらくバスケに関する最高のアドバイスをもらった。「もうひとつだけ多くドリブル」をするためのタイミングを学んだ──オレはそれを“我慢のドリブル”と呼んでいる。そのタイミングが身についた時、すべての試合がスローモーションみたいになった。
でもその後、アイザイアとの会話をもう少し考えてみた。オレ自身、今は引退した元選手として外にいて、リーグの次世代の選手たちが進んでいくために、色々と伝えようとしているからな。彼らはいつもオレを捕まえてアドバイスを求めてくる。デニス・スミス・ジュニアなんて、ちょっと前にやってきて教えを乞うたくらいだ。だからオレは、彼らにとって、どんなアドバイスがもっともパワフルかを考えていた。たとえば、自分の古い頭の中にある知恵のなかに、彼らの人生を変えてしまうほどのものはねえかな、とか。アイザイアがオレに教えてくれた“我慢のドリブル”のようなものは、彼らにとってどんなものだろうか、と。
でも正直なところ、思い至ったのはこんな真実だ。NBAの選手たちに与えられる最高のアドバイスは──バスケにまつわることじゃねえ。それは人生についてだ。
だからデニスにも、ほかの選手たちに言っていることを伝えたよ。
お前が望むところへ到達するには、色んなやり方がある──決してひとつじゃない。だから自分にもっとも適したやり方を見つけなけないとな。
自分自身のやり方を探し出すんだ、と。
13. 5人の子どものなかで、オレに一番似ているのは誰かと訊かれたら、答えは明確だ。
それは一番下の娘、ドリームだ。
面白いことに、末っ子のドリームは唯一、5人のなかでオレの現役時代を知らねえんだ。
でもな、この娘について2つのことを話そう。
ひとつめは、彼女のクロスオーバーはすでにやばいってこと。オレのYouTubeを観てきたんだろうな。
ふたつめは、これはオレに似ていることの決定的な証拠だ。というのも、ドリームはオレの殿堂入り式典の時に、おめかしするのが嫌だと言ったんだぜ! 本当の話さ。だからオレたちは、「ドリーム、今日はダディーの大事な夜なんだ。いい子だから、ドレスを着てくれよ」と言って、いくつか見繕ってみた。でもドリームは、「いやよ」と言った。
仕方ないから、「わかったよ、かわい子ちゃん。じゃあ何が着たいんだい?」と訊いてみた。
すると彼女はクローゼットへ行き、ぐしゃぐしゃと物色してはまた物色してを繰り返し……外に出てきた。彼女はリーボックのカスタム版のスウェットの上下を持っていた──もちろん両サイドにIVERSONとプリントされているやつだ。
みんなで大爆笑さ。マジで止まんなかったな。笑いすぎたよ。だからこんなことを言った。「ふう、若い頃に着飾りたくない子がいるのか。他のひとたちがビシッと決めているところに、悪くないスウェットスーツだけに身を包んで行くのかい? オレなら、そんなことはしないな!」
そして彼女に、こんな風に訊いてみた。「ドリーム、いい子だから教えてほしい。どうしてパパの大事な夜に、スウェットスーツを着たいんだい? こんなに綺麗なドレスがあるっつうのに」。それでもな、彼女はまったく変わらず、次のように言ったよ。
「私はこれが着たいの。私の名前が入っているし」
ふう、すごいだろ。
でも勘違いしてほしくないんだが、最後はドリームのために買ったドレスを着せたよ(オレの殿堂入りの式典は一度しかねえからな)。
でも本当のことを言うとな……。
それこそ、オレが着たいものだったんだ。オレの名前が入っているし。
ドリームとのこの一件は、本当に誇らしかった。プライドが満たされたな。今でも思い出すと、感情が昂ってしまいそうになる。ただ頭に思い浮かべるだけでもな。
バスケのスウェットを纏ったオレの娘。彼女は自分の名前が入っていることを誇らしく感じている。
オレには、これがレガシーだ。
14. あのラリー・ヒューズの話──真実を話す義務があるな。
読者のあなたは、この記事に相当長くつきあってくれた。間違いない。だから、オレにはあの話の真実を話す義務があると思うんだ。
ただな、実際はすでに本当のことを話しちゃったんだけどな! とっくにな。天に誓ってもいい。最初の方で、オレはこのストーリーを普通のひととして綴りたいと言ったよな。AIとしてではなく、ただの普通のひととして。
ラリーの話も同じさ。オレが語った通りだよ。オレは天使でもなければ、オプラみたいなタイプの人間でもない──練習中に歩き回って「クルマがほしいでしょ! クルマよ!」とか言っているような。そんなわけはねえ。練習中に選手を虐めたり、威張って怒鳴り散らしたりするようなベテランか? もちろん、それもねえだろ!
本当のオレとは? 本当のアレン・アイバーソンとは? ただの男だ。つまんねえけど、これが真実だ。
さあ、面白いのはここからだぜ。オレは運転を始めた時から、クルマにガソリンが入っているかどうかなんて、気にしたことがない! 実は……、オレは当時、クルマにガソリンが必要かどうかさえ知らなかった。いや、それは冗談だ。わりい、わりい。クルマにはガソリンが必要だ。でもそれがなかったら? 知らねえよ! クルマで家に帰る時、ビー、ビー、ビー、ビー、ビーって警報が鳴り、タンクの目盛りを見ると、残りは15分くらいしか、数マイルくらいしか走れねえとさ。「マジか!」ってなるけど、これが何回起きたかは教えられねえな。
これから2つのことを話そう。まず、そんな状況でもオレはガソリンスタンドに立ち寄ったことが、たったの一度もねえんだ。そして、いつもちゃんと家に帰れた。
だから真実はもうあなたも知っているよな。
なんにしろ、これがオレの語りたかったことのほぼすべてだ。もしあなたがこの記事を最後まで呼んでくれたなら、心から感謝したい。本当のオレのことについて、少しでも何かを知ってくれたら、あるいは少なくとも、本当のオレの今を知ってくれたら嬉しいよ。オレが裏表がない人間だという評判があるのは知っている。だけど、実際のところ、評判なんてものはないんだ。誓うよ。オレたちは常に変わり続けている──成長し続けているんだ! 人生を通じて、ずっと動き続けている。それが本当のオレだと思う。本当のアレンさ。それ以上でもそれ以下でもねえ。わかるよな? オレは43歳で……引退した選手……だが、まだまだ動き続けているぜ。
ビー、ビー、ビー、ビー、ビーなんて警報は鳴ってねえよ。まったくな。
まだオレのタンクは空じゃねえぜ。