Dear Tokyo

ⒸFC TOKYO

15年目のシーズンを戦うFC東京の選手として、僕は今、この手紙を書いている。ファン・サポーター、チームメイト、スタッフなど、このクラブを支えてくれている多くの人々へ向けて。

愛情、愛着、責任──僕がクラブに抱いている思いを言葉にすると、こんなふうになると思う。

FC東京との最初の接触は、中学生の時だった。サンフレッチェ広島のジュニアユースの選手として、同じカテゴリーのFC東京と対戦したんだ。

その頃、東京や大阪のチームと対戦する時は、なんていうか、ちょっと気張っていた。僕と同じ地方出身者の方ならわかるかもしれないけど、少年時代に都会のチームと対戦する時って、正直、びびってしまうよね。県内では無敵だと思っていたのに、都会の選手にはちょっと構えてしまって。何か僕らには知り得ないことを経験しているんじゃないかと、勘ぐったりしたり。

でも、そんな雰囲気に飲まれてはいけないと思っていたので、虚勢を張っていた。僕自身、当時は怖いもの知らずで生意気だったし、根拠のない自信に満ちていたし。

いやでも、ヴェルディにいた、ひとつ年下の森本貴幸を初めて見た時は、本当に大きな衝撃を受けた。とんでもない奴がいるんだな、やっぱり東京ってすごいな、と。

そんな僕がこうして今、東京に十数年も住んでいるんだ。人生は不思議だよね。

森重真人
Courtesy Masato Morishige

「私の思い描いているチームの最後のワンピースが森重だ」

城福監督に言われたこのフレーズが、FC東京に加入する決め手となった。そんな言葉で熱く勧誘してもらえて、素直に嬉しかったことを覚えている。

それは2010年、大分トリニータで3シーズンを過ごした後のことだ。FC東京以外にも、いくつかのクラブから正式なオファーが届いていたから、それぞれのクラブの監督と会って話を聞いた。

まず、後ろからパスを繋いで攻撃を仕掛けていく城福監督のスタイルに共感できた。そんなサッカーがしたかったし、城福さんのチームなら、自分の特長が十全に生かせるのではないかと思えた。僕はディフェンダーだけど、ゲームを組み立てたり、攻撃に関わることが好きだから。

そしてなにより、監督の熱い言葉がすごく嬉しかった。FC東京はその前のシーズンに良い成績を残していて、さらなる飛躍のために、自分が必要だと言ってくれたんだ。

熱量とプロジェクト──これがFC東京入りを決めた理由だ。実を言うと、FC東京より良い条件を提示してくれたクラブもあったんだけどね。でもそれより重視するものが、僕にはあったから。

はじめてクラブハウスを訪れた時、第一印象は、意外と普通(笑)。それに東京のことはほとんど何も知らなかったから、小平がどこにあるのかもよく知らなかった。国立市に国立競技場があると思っていたくらいで(笑)。

移籍して初めて練習場に入る時、自分にこう誓った。

「ここからもっと成長して、もっと大きくなる。絶対にここで成功しよう」と。

自信を持っていたし、不安より期待が大きかった。でも現実はそれほど甘くなかったね。FC東京でのデビューシーズンにJ2へ降格。自分自身のパフォーマンスも、サッカー人生で最悪だった。

当時の自分はプレーが荒く、ファウルが多かった。だから次のシーズンのJ2で、そのウィークポイントを徹底的に改めて、精度の高いプレーを淡々とやれるようになろうとした。

自分に何が足りないのか、自分に何が必要なのか──。

それを意識して、毎日のトレーニングを大事にする。そして、しっかりと頭を整理して試合に臨む。取り組み方が劇的に変わるきっかけになったし、この経験こそが、今なおサッカーを続けていられる理由だと思う。

幸いにも、隣に今野さんがいたので、同じセンターバックとして学べるところを、見よう見まねで吸収していった。今野さんは地味なんだけど、ディフェンダーに必要な要素を全て高く備えていたので、すごく参考になった。ファウルをせずにボールを奪うことも、本当にうまかった。

ただ今野さんは口数の少ないひとで、おそらくほとんど会話をしたことがないので、言葉では何も教えてもらわなかった。少しくらいアドバイスをしてくれてもいいのに、と思うこともあったけど(笑)、僕が勝手に憧れて、真似して、いつか追い抜いてやる! と決めていただけで。近くにあれほど質の高いディフェンダーがいてくれて、本当に助かったよ。

そして、あのシーズンは最後にクラブ史上初、J2クラブとしても史上初となる天皇杯制覇を成し遂げた。ダメだった自分が奮起して、反省して取り組んだことが実った瞬間だった。

森重まさt
Etsuo Hara / Getty

それと同時に、クラブへの愛情が芽生えた瞬間でもあった。1年目にどうしようもないプレーをして、クラブが降格した時は、なんでこんなやつが来たんだと思ったファン・サポーターもいたはずだ。それでも、次のシーズンも応援してくれるひとがたくさんいた。だからあのスタジアムの大観衆を見た時、信頼を取り戻すためにやらないといけない、と自分に言い聞かせた。

京都サンガF.C.との決勝では、ゴールも決めて優勝に貢献できた。自分はその3年前に大分トリニータでリーグカップを制していたので、この時も決勝が始まれば、絶対に勝てると思っていた。緊張もなく、とにかくこのお祭りを楽しもうと。ここでも根拠に乏しい自信があったんだ。それにもともと、相手が強ければ強いほど、舞台が大きければ大きいほど、力を発揮できるようなところがあるんだ。

ディフェンダーの自分がゴールを決めて、伝統のカップ戦の頂点に立つ──。そんな姿をファンやサポーターに見せられたあの優勝は、ものすごく重要なものになった。

2017年に大怪我をした時も前を向くことができたのは、ファンやサポーターのおかげだよ。結果的には、翌年のワールドカップで2度目の出場は叶わなかったけど、彼らの存在や応援こそが、辛いリハビリを続けるための原動力になった。必ず復帰して、FC東京を代表してワールドカップに出場したい──その想いがあったから、最後まで頑張れた。みんなに感謝している。

FC東京には、すごく愛のあるファン・サポーターがついているよね。どちらかというと、おとなしくて、優しいひとたち。自分はディフェンダーだけど、攻撃的なプレーが好きで、そんな自分らしい姿を見てもらうと反応が良かったりする。

森重選手のそういうプレーが好きなんです──直接そんなふうに言ってくれるひともいるんだ。すごく嬉しいし、勇気になる。

そしてなんといっても、彼らと一緒に歌う『You'll Never Walk Alone』が最高だ。特に勝利の後にファン・サポーターと共に合唱するのが、これ以上ないほどに幸せな瞬間なんだ。とっておきのご褒美のようなもの。きつかった練習なんかも、あの瞬間に報われる。この時のためにやってきたと感じられる贅沢なひとときだ。あの空間で大勢のファン・サポーターと喜びを分かち合える時間が、一番好きなんだ。

森重真人
J.LEAGUE via Getty

ただ、2013年にポポさんからキャプテンに指名された時は、正直、ちょっと戸惑った。それまで自分は一度もキャプテンをやったことがなかったし、自由に好き勝手にやりたいほうだったから。

自分はリーダータイプではないと思っていたんだ。

キャプテンになったら、自分のことだけを考えるわけにはいかないし、チーム全体を見なければいけないし、考えなければいけない。そんな役割をまっとうできるのか。そう思ったことは確かだ。

でもせっかくの機会なので、断るつもりはなかった。おそらく自分のパフォーマンスが上がり、チーム内の重要性が高まっていたからこそ、監督が指名してくれたはずだと思えたし。

まずは自分にできること、やれることをやると決めて、引き受けることにした。しっかりトレーニングをして、チーム内では常に一番であろうとした。多くを語るのではなく、背中でチームを引っ張っていこうとしたんだ。

でもなかなか、自分がキャプテンらしいと思えることはなくて(笑)。代表にも呼ばれるようになって、チームを離れることが多くなり、チームの成績も振るわなかったり。そんな時は責任を感じたよ。

その後もずっとFC東京でリーダーをやらせてもらっているから、このクラブへの愛着はひと一倍強いと思う。このクラブで歴史をつくりたいし、力になりたい。

世界でも“TOKYO”のことは、誰もが知っている。だからFC東京は、日本を代表するクラブにならなければいけない。一番強いチームであるために、選手やスタッフをはじめ、一番良い人材が集まるクラブになってほしいと願っている。自分もその対象のひとりなんだ。いち選手としてFC東京の力になれないと感じた時には、きちんと決断するつもりだよ。覚悟はできている。

森重まさt
ⒸFC TOKYO

僕がFC東京で15シーズン目を迎えているのは、ひとえにここでリーグ優勝したいから。まだこのクラブが成し遂げていないことを、達成したいと思ってやってきたし、今も同じ気持ちだ。これまでに移籍の話がなかったわけではない。でもそのたびに、このクラブで歴史を作りたいという気持ちの方が強いと気づくんだ。

最初は迷惑をかけたのに、そんな自分に声援を送ってくれる人々。昔からFC東京を応援してくれている地元のおじさんやおばさんのなかには、今でもずっと観に来てくれているひともいる。みんなに恩返しするには、リーグ優勝するしかない。

愛情、愛着、責任──自分の力がチームに必要とされるかぎり、ここを離れようとは思わない。

自分は37歳になったけど、後悔なく、やれるところまでやりたいと思っている。

首都TOKYOを背負うクラブの一員として、その名に恥じぬように。

森重真人

森重まさt

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