スポーツだけのことじゃなくて

RACHEL WOOLF/THE PLAYERS' TRIBUNE

To read in English (Jun 9, 2020), please click here.

 俺はミシガン州フリントという街で母の手ひとつで育てられた。そこに住む多くが黒人ばかりの、労働者階級の街だ。通りを挟んだ向こう側にゼネラル・モーターズの工場がある場所に俺たちは住んでいた。

 俺は“ミックス”(母が白人で父が黒人)で、そのアイデンティティは成長するにつれて誰の目にも明らかになった。幼いころ、近所の黒人の子からは「おまえは黒人じゃない」と言われ、白人ばかりのベントレー高校に進学した途端、数少ない黒人学生の1人になり、あらゆる類の人種差別と差別的ジョークを聞かされた。

 その子たちにとって、俺は黒人にしか見えなかったんだ。

 異なる人種の両親の間に生まれた大半の子どもにとって、自分は、黒人というほど黒くなく、白人というほど白くないと感じた事があるのというのは良くある話だろう。その背後にある歴史は子どもにはわからないが、現実をまざまざと思い知らされる。黒人社会で「お前は半分だけ黒人だ」と教えられ、白人社会ではただ黒人とされるか、もしくはさらにひどく、ニガー(黒んぼ *黒人に対する差別用語)と呼ばれる。(高校時代、実際に目の前でそういうことを言われた)。

 そう、俺は黒人と白人の両方の社会から、虐げられつつ育ったんだ。

俺は黒人と白人の両方の社会から、虐げられつつ育ったんだ

カイル・クーズマ

 母は黒人の父と結婚し“ミックス”の子を持つことについて自分の家族からも反対されたが、そのことについて話したことはない。母は愛すること、団結することを教えてくれたんだ。

 だから俺も今日に至るまで、俺たちは皆、同じ人間なんだというスタンスを取っている。

 要するに、俺たちは同じ“人間”としてひとつになり協力しなければならない。

 だが、アフリカ系アメリカ人が置かれてきた過去から現在にいたるまでの厳しい現実、そしてこの先も続くであろう現実を白人が理解するまで、ひとつになれないということはわかっている。

 そんな社会を変えるため、みんながブラック・ライヴズ・マターのために団結し、国のいたるところでデモを行っている。

 だが、社会を変えたいのなら、最初にまず、その問題について理解しなくちゃならない。

 世界中の誰もが何らかの問題を抱きながらも、身の安全や過去のトラウマに怯え、それらのことについて話したがらないし、何も行動できずにいる。

 アメリカが国をあげて問題提起したがらないのは、人種差別だ。

 まず知っておかなければいけないことは、どんな社会にも差別は存在するということだ。それは法律の中にも、経済の中にも、そして人と人との間にもある。どんな世界にも存在するんだ。

 次にわかってないといけないのは、この社会がもう何世代にも渡って当たり前のように弾圧を作ってきたということだ。

 それは長い期間をかけて根付いてしまっている問題だ。

Courtesy of Kyle Kuzma

「自分は人種差別なんてしないよ」と言う人もいるだろうが、白人はそれが自分個人がどのように考えているのかとは別問題だということを深く理解する必要がある。

 個人の考えではなく、差別の仕組みが出来上がっているんだ。そして、白人はそのことに気づくことができない。なぜなら、その特権を彼らが享受しているからだ。

 白人の特権を説明するうえで、俺が聞いた最もベストな例えは「すべての白人は、目に見えないバックパックのようなものを身に着けている」というものだ。自分が白人だとして、助けが必要な状況のとき、そのバックパックからあらゆる権利を引き出すことができる。

 刑務所から自由に逃れられるカード。

 雇用機会。

 健康保険。

 住宅ローン。

 誤解しないでほしい。そういうのは黒人でも得られる場合もあるが、白人より遥かに難しいんだ。

 この国で経済や健康面で影響を与えるすべての物事が、これまで黒人社会を悪化させてきたことを考えてほしい。

 大恐慌、大不況、大型ハリケーンのカトリーナみたいな自然災害。新型コロナウイルス。

白人の特権を説明するうえで、俺が聞いた最もベストな例えは、「すべての白人は、目に見えないバックパックのようなものを身に着けている」というものだ。自分が白人だとして、助けが必要な状況のとき、そのバックパックからあらゆる権利を引き出すことができる

カイル・クーズマ

 住宅市場が崩壊した1930年代、黒人たちは大きな打撃を受けた。彼らは他の誰よりも早く解雇され、失業率が悪化した。市場崩壊が終わった後、政府は経済復旧のために全米のほとんどすべての国民に支援活動を行ったが、それに黒人社会は含まれてなかった。

 2008年に大不況が起こったとき、俺はまだ十代だった。

 不況に見舞われたとき、フリントに住む人のほとんどが職を失ったようだった。10万人中、2万人に近い数だ。

 失業した人の多くは黒人で、俺の家の向かいにあるゼネラル・モーターズの工場のような場所で働いていた。

 フリントは治安の悪い場所として有名だった。汚染された水が流れ、開発されることもない街だ。50年代や60年代には国内でも有数の、急速に発展していた場所の1つだったことを知る人は少ないだろう。ミシガン州で生まれた自動車産業が急成長する中で、フリントは先駆けの街だった。

 経済的な視点からそういう街を取り戻そうとしていたが、そうはならなかった。

 あの不況以来、あの街に希望はなくなった。経済的な支援もなかったんだ。

 俺が育った街は傷ついていたのさ。

 フリントのような街、あるいはアメリカ中西部の小さな町で育てば、人種と経済がどのように密接に関連しているかがわかる。

Rachel Woolf/The Players' Tribune

 過去に起こったことを知らなければ、あのジョージ・フロイドの身に何が起こったのかを理解することはできない。

 人種差別は奴隷制度以外の何ものでもない。そしてその奴隷制度はもう何世代にも渡って、白人の家族に受け継がれてきたことなんだ。

 南北戦争で奴隷制度を擁護するために戦ったアレクサンダー・スティーブンス副大統領は、コーナーストーン演説と呼ばれるスピーチの中で、彼らの行動は、白人が常に黒人よりも優れているという考えに基づいているものだと述べた。どんな世でも黒人は生まれながらにして奴隷なのだという意味だった。

 彼はこう言ったんだ。「我々が築き上げた政府の基盤は、白人とニグロ(黒人)は等しくないという偉大な真実によって成立している」とね。

 1865年に南北戦争が終わり奴隷は解放されたが、人種差別が終わりを告げ、黒人が自由になったわけではない。

 黒人が解放されることは、当時の白人にとっては恐怖でしかなかったので、決して少なくはない人々が奴隷制度を継続したがっていた。ここで言う人々とは、上院議員や権力者、そういう考えを持ち続けていた法の番人のことだ。

 だからこそ、奴隷制度の後、黒人が抜け出すのが難しい、一種の溝に閉じ込めておくような法律が定められた。

 それがアメリカ合衆国の憲法修正第13条であり、奴隷制度を廃止しながらも、犯罪者であるならば、という特例を認めたものだ。

 つまり、黒人は自由になったが、もしも犯罪者なら特例が認められるので、彼らを犯罪者にすればいいじゃないか。ルールを厳しくして、彼らが簡単に失態を犯すようにすればいいということだった。

 さぁ麻薬戦争だ、と言ったニクソンやレーガンの大統領時代を思い出せばわかるだろう。

 麻薬が社会にとって非常に有害であるからではなく、麻薬が黒人社会に蔓延していたからだ。それは職を失った人々が家族を養うために、ドラッグの売買をしなくてはならなかったからだ。

 そうすると、どうなったか。ほんの微量の大麻でも「容赦なし」で、すぐさま囚人になったんだ。

 奴隷制度との繋がりが、わかるかな?

 人種差別を必然的に認める仕組みなんだと人々が訴えるのは、そういう意味さ。

 警官がとても酷い人間だから、この運動が起きてると思う?

 違うね。それよりも、もっと深く大きな理由なんだ。

 俺の祖母がフリント警察の警部補だったこともあり、そこに素晴らしい何人もの警察官がいるのはわかっている。ただし、たとえ警察官が身内にいても、たとえ有名人であっても、アメリカで生きる黒人なら警察に対していつでも、不安や恐怖を感じるようになる。

 プロのアスリートも同じだ。俺はいまでも車の運転中に警察を見れば、次の5分間はバックミラーに注意を払ってしまうし、停車しろと命じられれば、怖くなる。

 人種差別のある社会で生きている黒人にとって、それは普通のことなんだ。

 我々を守ってくれるはずの人々を怖がらなくちゃならないんだ。

 その恐怖がどこから来るのかは、はっきりしている。

 俺は専門家じゃないから、ただ自分の感じていることや知ってることを共有しているだけだ。当たり前のように差別する仕組みを食い止めるためにプレゼンできるパワーポイントも持ってない。

 だが、アスリートとして発言し、多くの人々に問題を「教える」ことが重要であるとわかっている。

 アフリカ系アメリカ人がこの社会で成し遂げたことを見ると、驚かされる。奴隷船に乗せられてきた人々が、億万長者になったり、独自の文化や生き方を構築したり、それまで黒人たちがどんな立ち位置にいたかを考えると、驚くべきことだ。

 間違いなく変化はしているが、平等になるまでまだまだ先は長いってことも理解する必要がある。

 長いアメリカの歴史の中で、ここまで“団結”したことはない。ブラック・ライヴズ・マターの行進をよく見ると、そこには白人もたくさんいるんだ。クレイジーだよな。

 100%正直に言うならば、これは黒人社会にとって記念すべき時だと感じている。いままで、これほど多くの白人が「これは正しくない」と理解したことがないからだ。

 そう、間違っているんだ。

 2012年にトレイボン・マーティン射殺事件が起きて、ブラック・ライヴズ・マターが始まったころは、黒人だけが反黒人勢力や警察に対して反発していた。

 だが、いまは、何千人もの白人が俺たち黒人と一緒に立ち上がっている。

 いろんな企業にもプレッシャーがかかっているんだよ。「何もまだ言ってないんだね」「何も言わないのはなぜなんだ?」「何もしないのはなぜなんだ?」と言われるのが嫌で、この国の多くの経営者たちも立ち上がらなければならなくなったんだと思う。

 この状況は変わってほしくない! なぜなら、過去に黒人が殺されたとき、だからブラック・ライヴズ・マターだ、正しくないことだと話し合いながらも、結局は誰もが普通の日常に戻ってしまった。

 もう同じ過ちを繰り返すべきではない。

 忘れ去らないためには同時に2つのことをしなくちゃならない。声をあげ続けること。行進を続けること。

 そして、選挙の日にも、変化を求めることだ。

 社会福祉や教育を差し置いて、盲目的に警察へ金銭のサポートをしている人々を投票によって政治の世界から追放すること。我々が望むような速さで変化を好まない人々を投票によって締め出すことも大事だ。

 だから、俺はそのために立ち上がった。

社会福祉や教育を差し置いて、盲目的に警察へ金銭のサポートをしている人々を投票によって政治の世界から追放すること

カイル・クーズマ

 まもなく発表できると思うが、今年、何が人々にとって優先されるのかを理解し、すべての州において投票を促すキャンペーンを実施する団体を俺は立ち上げようとしているんだ。

 それまでは自分自身でも学び続けよう。自分たちが学び続けることでこそ、一番大きな違いが生まれるからだ。もっとも大事なのは教育なんだ。

 奴隷制度が始まったころ、白人は自分の意志を持った黒人を恐れた。

 読むことができること。

 書くことができること。

 考えることができること。

 そして、投票できること。

 わかるよね、そういう人間は、立ち上がることができるんだ。

 すべての人々が自由になるまで、俺は行動し続けるよ。

FEATURED STORIES