我がバックスファミリーへ
To Read in English(Published Jul 20, 2021),click here.
バックスファン、そしてバックスの選手たちへ。
あれからもう50年になる。
50年という長い月日が経ち、あと2勝というところまできている。
正直に言うと、当時を思い返す。我々が1971年に優勝した時、それはとてつもないことだった。特に、すでに10年以上もこのリーグでプレーしていた私にとっては大きな出来事だった。
あの夜のことで覚えているのは、妻に電話をかけたことだ。
1960年にドラフトで指名されてから、妻は私を支え続けてくれた。彼女は、私が世間からの批判を受け入れてきたことも知っている。私はスタープレーヤーだった。オールNBAにも11度選出された。だが優勝できていなかったことで私の力量を疑う意見もあった。
「ああ、オスカー・ロバートソンは確かに素晴らしい選手だ。実績もある。しかし、まだ優勝していない」とね。
それは、当時の私に対するネガティブな意見だった。
その評価を変えたかった。そのために何をすべきかは明白だった。
優勝の可能性が見えてきた頃、私たちは夜遊びなんてしなかった。悪ノリすることもなかった。誰かがシュートを決めても、大袈裟に声をあげて喜ぶことはなかった。そうしなかったんだ。
私たちは目の前の仕事に集中していた。
基本的なことを忠実に実行し続けた。
その結果、私たちはミルウォーキーに優勝を捧げることができた。
飛行機でミルウォーキーに戻った我々を数千人のファンが出迎えてくれた。そんなことが想像できるかい? 数千人だぞ...具体的に何千人だったかは覚えていない。とにかく、その場にいた全員が私たちに大きな歓声をあげてくれた。本当に心地の良い瞬間だった。
帰宅すると、とても良い近所づきあいをしていたプリースター家が、私の家と彼らの家との間に「行け、バックス! やってやれオスカー!」というような言葉が書かれた横断幕を掲げてくれていた。本当に最高の瞬間だった。最高の時間だった。
あのシーズンを振り返ると、チーム全員の力で掴んだ優勝だった。力のある先発5人も必要だが、優勝するためにはベンチの助けも欠かせない。我々のケースで言うと、選手だけの力ではなかった。球団も適材適所の選手をトレードで獲得してくれて、チームに必要だった経験豊富なベテラン、マッコイ・マクレモア、ボブ・ブーザー、ルーシャス・アレンとも契約してくれた。そこにカリーム、ダンドリッジ、マクグロックリン、私が揃っていて、私たちは手強いチームだった。
あれから50年、今のバックスも当時の私たちと同じ位置にいる。
本当に、今のチームの試合が見られるのは喜びでしかない。
ヤニスは素晴らしいアスリートだ。彼のボールさばきは素晴らしい。俊敏で、一般人が二歩かかるところをたった一歩の歩幅で進める。
バックコートにはホリデーがいる。彼の存在はチームに大きな影響をもたらしていると思う。第5戦でのブッカーからボールを奪って、ヤニスに絶妙なパスを出したプレーは、とても素晴らしかった。
だが、ヤニス、ホリデー、クリス・ミドルトンだけのチームではない。無論、彼らはタフな選手で、素晴らしいプレーヤーだ。ただ優勝するにはポーターJr.、カナートン、ブルック・ロペスの力も鍵になる。チームのために点を決めてくれる選手、力を発揮する選手が必要になる。
基本に立ち返り、シンプルなバスケットボールをプレーしないといけない。
我々はそうやって71年に勝った。今回バックスが優勝するには、当時と同じ意識を持ってやらないといけない。
それこそが勝つために必要なことなんだ。
48分間、いいバスケットボールをすること。
ただもちろん、バックスが今の位置に到達できたのもすごいことで、それを忘れてもらいたくはない。現代のNBAでは、小規模なフランチャイズが結果を残すのは非常に難しい。有望な選手たちはロサンゼルス、マイアミ、ニューヨークに飛んでいく時代だ。市場が小さい都市のチームに移籍する選手は、あまり聞かない。そういう時代ではないんだ。
ミルウォーキーはヤニスを引き留められた。これは私のチームにとって、とても大きなことだった。
もし“オスカー・ロバートソン・ルール”によって、選手たちが正当な権利を手にできているのなら、これほど嬉しいことはない。
昔は、オーナーが全権を握っていた。オーナーだけがトレードを成立させられた。選手は、時に望まない都市やチームへトレードされてしまうこともあった。選手にも拒否する権利はあるべきなんだ。現代ではレブロンがマイアミに行った後でクリーブランドに戻れるし、レイカーズにも移籍できる。カワイもサンアントニオからトロントを経由してクリッパーズに行ける。ケビン・ガーネットだってセルティックスに移籍してリングを勝ち取った。
今は選手たちもビジネス側に立つオーナーと同等の力を持っている。それがこの競技を前に推し進める力になる。そのおかげで現代のNBAがある。私も誇らしいよ。
私が現役だった頃は、選手会としての努力がどういう結末をもたらすか想像もできなかった。私たちは、バスケットボール選手の生活が少しでも良くなるような環境を作りたかったんだ。
そして今、このリーグは我々の想像をはるかに超えるほど巨大なものになった。
黒人でも白人でも人種に関係なく、全てのアスリートは自分の競技の歴史を学ぶべきなんだ。誰が時代を作ってくれたのか? どうやって今の形になったのか? 色々と勉強になることは多い。競技の先駆者を知るのは大事なことだ。様々なパイオニアの存在は興味深い。私も先頭に立った側だが、私よりも先に道を作ってくれた先輩たちもいる。私の後に道を作った選手もいる。そうだ、これも伝えておこう。現役選手の中にも、現代の素晴らしい競技へと変えてくれたパイオニアが存在する。そしてこれからもパイオニアは生まれる。
ここまで綴ってきたが、老兵からあと少しだけアドバイスを送らせてもらいたい。
バックスの選手たちへ...自分たちが今どこにいるのかを考えて、真剣に考えて、楽しんでごらん。そして懸命にプレーしてほしい。過去のどの試合よりも一生懸命に。人生は進んでいく。もしかしたら、二度とファイナルにたどり着けないかもしれない。
そしてバックスファンへ...50年という月日は長い。それは私がよくわかっている。でも、再び歴史が生まれる瞬間まで、あと一歩のところまできている。
ホームに優勝を持ち帰ろう。